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2006年10月13日 (金)

発覚時から時効起算 新生児取り違え(長文)

 今朝の朝日新聞の一面。
日ハムの優勝がトップ記事にくるかと思いきや、
新生児取り違い事件での逆転勝訴判決がトップにきていた。
見出しには「時効の起算点を変更」という字が躍る。
そして、判決を導いたのは「時効の起算点を動かしたから」
だというニュアンスの記事が続いていた。
46年前の取り違い事件において
時効の起算点を動かすことにより、
時効の消滅が適用されないとなれば、
それはこれまでの法理論を根本から覆す
一大事なのでトップ記事になるのはわかる。
しかし、詳しく記事を読むとそんな大それた判決ではない。
朝日新聞の記事はちょっと誤解をしていると思う。

 他人に金銭を要求する際にその要求の基礎となる根拠、
金銭請求権の根拠は法的には4つに分類されます。
(1)契約に基づく請求権
(2)不法行為に基づく請求権
(3)不当利得
(4)事務管理
の、4つなのですが、
その多くが前2者の問題になります。
今回の新生児取り違え事件でも、
(1)「医療契約」に違反して、「新生児を両親に引き渡す債務」
を、きちんと履行しなかったことが債務不履行であるとして、
債務不履行に基づく賠償請求の存否と
(2)新生児の取り違えを行ったこと
を内容とする「不法行為」に基づく損害賠償請求の存否
が問題となっています。

 上記(1)~(4)のどの債権(請求権)も
「債権を行使できるのに」長期間行使しなかったために
請求権を放棄したものと推定して、
債権(請求権)そのものが消滅してしまう制度があり、
これを一般に時効と呼んでいます。
(1)(3)(4)は一般に10年、
(2)の不法行為に基づく請求権は、
3年でこの請求権の放棄があったことを推定して、
時効により請求権の消滅を認めています。
これは一般に債務者(不法行為の場合は加害者)の
「もう、請求してこないだろう」という期待を
法的に保護するものであり、
法律関係の早期安定をその趣旨とします。
 これに加え(2)の不法行為に基づく損害賠償請求権には
長期時効とも呼べる20年の「除斥期間」が定められていて、
広い意味で2種類の時効制度が存在します。
これは20年の時間の経過により
請求権の基礎となる事実の立証が困難となるので、
正確な裁判が期待できないために、
裁判に訴えて出る権利を奪うものであって、
短期消滅時効とその制度の趣旨を異にします。

 そして通常、20年の除斥期間が経過した場合は、
3年の短期消滅時効は過ぎているのであまり問題になりませんが、
理論上、20年の除斥期間が経過しているのに、
3年の短期消滅時効が過ぎていない場合が生じます。
なぜなら、短期の消滅時効(3年)は、
「権利を行使できるのに」行使しなかった点から
権利の放棄を推定し、法律関係の早期安定をその
制度の趣旨とするものですから、
「権利を行使できる」といえるためには、
1、損害の発生の認識
2、加害者の特定
が為されている必要があります。
例えば、HIVやC型肝炎の薬害事件では
潜伏期間が長いために損害の発生を認識するのに
10年以上経ってしまう場合が考えられますね。
交通事故のひき逃げ事件では、加害者の特定が
難しい場合もあります。
したがって、20年の除斥期間が経過しているけど、
3年の短期消滅時効にはかかっていない場合が想定しえます。
しかし、法は20年の除斥期間が経過している場合は、
3年の短期消滅時効にかかっていなくても、
一律に時効が成立してしまうとしています。

 なぜなら不法行為の場合は契約行為ではなく、
生の事実行為・事件から
損害賠償請求権を認めるものですから、
なにがあったのか無かったのかという
事実認定が請求権の基礎となります。
仮に1980年にAさんがBさんを車でひいて逃げたとします。
この場合1980年にAさんがBさんを車でひいたという
事実が去年(2005年)に明らかになれば、
3年の短期消滅時効は経過していないが、
20年の除斥期間は経過しています。
不法行為に基づく損害賠償請求とは、
【事実(不法行為)の発生】を根拠に
損害賠償請求権が発生するわけですから、
去年加害者が誰なのかやっと判明した場合、
3年の短期消滅時効が経過していないということを
立証するために、加害者が誰なのかを知ったのが
2005年なんだという立証はもちろん必要なのですが、
それと同時に1980年(20年以上前)に
ひき逃げ事故があったという事実も立証しなければなりません。
同じ「不法行為に基づく」損害賠償請求権である以上、
3年の短期消滅時効が経過していないからといって、
20年の除斥期間の趣旨を無視していい
という論理は取れないのです。
20年以上前の事件である以上、
正確な【事実の認定】が難しいことにかわりはないのです。

 しかし、(1)契約に基づく請求権
(2)不法行為に基づく請求権
とでは、請求権そのものが違い、
認定の基準そのものが違います。
(2)の不法行為では事実(行為)の有無が焦点ですが、
(1)の場合は契約の有無と、その契約の履行の有無が問題になります。
そして、契約の存在の有無は書面が存在する場合が多いので、
除斥期間というものが設けられていません。
30年前の契約であろうが100年前の契約であろうが、
契約の存在の証明は容易だから、
除斥期間というものが必要ないのです。
そこで、時効との関係では
「請求権の放棄があったといえるほどの
 権利の不行使が長期間に及んでいたか否か」
という問題だけが焦点になります。
【事実の認定】が難しいという問題は生じないのです。
そのため、親子の取り違えがあったことを
つい最近知ったのであれば、医療契約に基づく
新生児引渡し請求権の放棄があったといえるほどの
権利の不行使があったとはいえません。
権利の存在自体を知らなければ
権利の行使ができないからです。
東京高裁はごく当たり前の判決を下しただけだと思います。

 マスコミが騒ぐのは46年経って
親子と思っていたのが、実は違ったという
珍事である点もあるのでしょうけど、
学校の用務員が女性教師を殺害し、
時効期間が経過しているために
のうのうと暮らしている事件を
念頭においているとしか思えません。
しかし、殺人事件では「契約」関係というものは
存在しませんのでどうやっても時効が過ぎてしまいます。
同列に論じること自体が間違いであり、
危険な発想である点を指摘したいと思います。

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