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2006年5月12日 (金)

共謀罪

 共謀罪という法律が作られようとしています。
非常に問題がある法律なので廃案となることを望みます。

 マスコミにも「治安維持法の復活」などと揶揄され、
批判が多いですが、なにが問題なのでしょうか?
現代刑法においては、行為者の主観を処罰するというスタンスはとらず、
外部に現れる客観面を評価して処罰しています。
この思想と真っ向から対立する法律なんですね。

 一つの極端な価値観として、
悪いヤツは世の中から一掃すべきであり、
悪いことを「考えている」ヤツは監獄に放り込んでしまえ。
という考え方があります。
なにも悪いことをしていなくても、
考えているだけで社会にとって危険だから排除しよう、
危険思想の持ち主を排除しようという考え方であり、
「治安維持法」はこの考え方を具体化した法律です。
共産主義者は逮捕!
反体制の人は逮捕!
そういう法律ですね。

 もう一つの極端な価値観として、
刑法とは法益を保護する法律だから、
(*法益とは、殺人罪でいえば「命」、窃盗罪で言えば「財物」)
法益が侵害されなかったら処罰しないという考え方です。
この考え方を徹底すると、
例えば、誰かに向かって銃を撃ったけど、
弾が入っていなかったため、
誰も死んでいないし、怪我もしなかった場合、
法益(=人の命)は侵害されていないわけですから、
犯罪不成立と考えることになります。
 どちらの考え方も極端なわけですが、
刑法を為政者に悪用されないためには、
後者の考え方を採るべきことになるのはわかりますよね?
では、共謀を処罰するというのはこの軸の中ではどこに位置づけられるのでしょうか?

 法益を侵害することの最終段階を「既遂」とすると、
その前段階は「未遂」ということになります。
その前段階が「予備」であり、
その更に前段階が「共謀」となり、
その更に前が「考えた」だけで処罰ということになります。

「未遂」とは、実行に着手したが法益を侵害できなかった場合であり、
法益を侵害する危険性を発生させた点を重視して、
多くの犯罪でその未遂を罰します。
「予備」とは、実行に着手していないが、
その準備があった場合、法益侵害の危険性を無視できないとして、
「重大な」犯罪に限ってその予備を処罰しています。

 ところで、「既遂」と「未遂」の区別は、法益が侵害されたか否かです。
殺人罪の保護法益は人の「生命」ですから、
死んだら既遂、死ななかったら未遂となるわけですね。
そして、「未遂」と「予備」の区別は、
「実行行為」に「着手」したか否かです。
「実行行為」とは類型的に当該犯罪の法益を侵害する行為を言います。
殺人罪でいえば、類型的に人の死を招く行為です。
ナイフで刺す行為・サリンを撒く行為などがこれにあたります。
これに対し、ナイフを購入するのは、
殺人に資する(役立つ)行為ではありますが、
「類型的に人の死を招く」行為ではないので、
実行行為の着手はなく、殺人の準備行為としての「予備」となります。
 この予備罪までは、外部からみて客観的に
法益侵害(既遂)に向けられた危険がはっきりと具体化しており、
客観的な行為があるから処罰をしてもあまり問題が生じません。
つまり、既遂の場合は、殺したわけですし、
未遂の場合は、殺そうとしたという客観的事実が存在し、
予備の場合は、ナイフを買ったという客観的事実が存在します。
殺人目的でナイフを買っているわけですから、
人を殺そうとしていることがはっきりしているのであり、
そのうち実行に着手したであろうということから、
処罰してもいいと考えることができますよね?

 また、これらの差は裁判にも現れます。
客観的な事実が存在する場合は立証するのは
そんなに難しいことではないので、
不当な裁判・捜査を招くおそれが少ないです。
「既遂」「未遂」「予備」を罰するという法律を設けても問題が生じません。
しかし、「共謀」しただけ「考えただけ」を処罰するのであれば、
通常は物的な証拠が残りませんので、
これを立証する方法は限られてきます。
その典型例は拷問なんですが・・・(笑)
んまぁ、今の日本で拷問をするバカはいないのですが、
拷問はなんのために行われるかというと、
「究極の証拠」と云われる「自白」を引き出すためにあるんですね、
「共謀」を処罰するという法律を作ることは、
捜査段階で「自白」を引き出そうと
無茶な操作を招く可能性が非常に高くなるわけです。
「チカン」の冤罪事件なんかで、
おまわりさんに何度も何度も同じ質問を繰り返されて、
早く捜査から開放されて早く帰りたいがために、
やってもないのに「自白」をしてしまったって話をよく聞きますよね?
そういう捜査が横行することになる危険が非常に高くなるんです。
また、「共謀」の事実を立証するために
盗聴を認めろという方向に話がいってしまいます。
共謀罪の新設は問題が多いといわざるをえません。

 確かに、凶悪犯罪において共謀に参加した者も処罰する必要があります。
地下鉄サリン事件で、首謀者とされる松本被告ですが、
「彼は殺人の実行行為を行っておらず、
 謀議に参加しただけ」だから無罪というわけにはいきません。
ですが、彼は現実に地下鉄サリン事件で裁判にかけられています。
今の刑法のもとでも、共謀共同正犯として処罰できるのです。
しかし、これは「共謀」を犯罪とするのではありません。
殺人などの犯罪が「行われた」のを前提に、
共謀者がその犯罪の実現の原因を招いたといえる場合に
謀議に参加しただけの者も
殺人既遂の「共同実行者」として処罰しているのです。
(→殺人の「共謀」の罪ではなく、「殺人既遂罪」として処罰)
犯罪の着手もないのに、共謀を処罰するわけではないのです。
(→これは、殺人の「共謀」の罪という考え方。)

 今の日本に共謀罪はいりません。
これを強行に通そうとする自民党に危険を感じます。